はじめに

「ポルシェのブレーキは宇宙一」という言葉は、自動車評論家の清水和夫さんの言葉です。

私自身、自動車に関する知識はまだまだ浅く、ブレーキの基本的な仕組みや、それがどのように車の安全性とパフォーマンスに影響しているのかについて、つい最近までほとんど理解していませんでした。恥ずかしい話ですが、タイヤの間に見える部品が、実はブレーキに関する重要な部品であることすら知りませんでした。

今回、ポルシェのブレーキがどういうものなのか、また、ポルシェのブレーキが宇宙位置と称される理由について調べてみました。

赤キャリパー

ポルシェのブレーキはブレンボとの共同開発で生み出されている


ブレンボは、高性能ブレーキシステムで知られるイタリアの企業です。

1961年に創業されて以来、ブレンボはブレーキディスクを中心に、先進的なブレーキシステムの設計・製造において、業界の先駆者としての地位を確立しました。その卓越した品質と性能は、F1をはじめとするモータースポーツ界で高く評価されており、最高峰のレースにおける安全性とパフォーマンス向上に大きく貢献しています。

ブレンボの製品は、ポルシェ、フェラーリ、AMGなどの世界を代表する高性能車ブランドにも採用されており、これらの車両の卓越した走行性能の一翼を担っています。ブレンボとポルシェとの間には、長年にわたる密接な協力関係があり、共同開発を通じて、ポルシェのための特別なブレーキシステムが生み出されています。

この共同開発のプロセスでは、ブレンボの革新的な技術とポルシェの厳格な性能要求が融合し、各モデルの性能と運転環境に最適化されたブレーキシステムが誕生しています。

黒キャリパー

ポルシェが求めるブレーキ性能

エンジン出力の4倍の制動力

エンジン出力と制動力の関係は、光と影のように密接なものです。これは、圧倒的な加速力を誇るエンジンの出力と、それを安全に制御し停止させるための制動力とが、互いに補い合う不可欠な関係にあることを示しています。

特にポルシェは、そのブレーキシステムに対して、エンジン出力の4倍という驚異的な制動力を求めています。

例えば、991型GT3は510PSを発揮しますが、ポルシェはこのパワーを安全に管理するために、2000PSを超える制動力が必要だと考えています。

ブレーキシステムの設計にあたっては、車両の重量、軸荷重の配分、加速性能、最高速度など、多数のパラメーターが考慮されます。これらのパラメーターに基づいて、ブレーキシステムは車両ごとに最適化され、冷却効率やタイヤのサイズといった要素も細かく検討されます。このプロセスを通じて、ポルシェは最高のパフォーマンスを発揮しながらも、安全性を最大限に保つブレーキシステムを開発しています。

さらに、ポルシェは制動力だけでなく、静粛性や快適性にも細心の注意を払っています。ブレーキをかけるたびに大きな音がするようでは、日常の運転や一般道での快適なドライビングは実現できません。そのため、ポルシェのブレーキシステムは、強力な制動力を発揮しつつも、静かで快適な使用感を提供するよう設計されています。

厳しい基準をクリアするための数々のテストを実施

ポルシェのブレーキシステム開発は、極限の条件下での性能を確かめるために数々の厳しいテストに挑むことから始まります。特に、超高速テストコースで行われるテストは、その中でも最も過酷な試験の一つとされています。このテストでは、車両を時速90kmから230kmまで加速させた後、急激にブレーキをかけて完全に停止させるというプロセスを15回繰り返します。この一連の動作を通じて、ブレーキディスクの温度は最高750℃に達することがあります。

この高温に達した後、ブレーキディスクを150℃まで冷却させることで、冷却効率をテストします。冷却後、再び急ブレーキを5回実施し、制動力が初期のテストと比較して落ちていないかを確認します。このテストを通じて、ブレーキシステムの耐久性、性能の持続性、および冷却効率が評価されます。

ポルシェが設定するこのような厳しい基準は、ただ単にブレーキシステムが高い性能を持っていることを確認するだけでなく、最も過酷な使用条件下でもドライバーの安全を確保し、信頼性を保つために設けられています。ポルシェは、これらのテストをクリアしたブレーキシステムだけが、同社の車両に搭載される資格を有すると考えています。この徹底した品質管理と開発過程が、ポルシェのブレーキシステムを「宇宙一」と称されるほどのレベルにまで引き上げているのです。

ポルシェのブレーキシステムは、最高の安全性とパフォーマンスを提供するために、このような厳しいテストを経て生まれるのです。

ベストブレーキングカーで堂々1位に輝くポルシェ

ドイツの自動車専門誌『アウト・モトーア・ウント・シュポルト』が、「時速100キロから完全停車までの制動距離が世界で一番短い車はどれか」をテーマに、ランキングで発表しました。

このテストは、数日間にわたって実施されます。

成人2人が乗った状態で、急停車を9回行ってブレーキを温めた後、10回目を計測の対象とします。

2016年度のランキング

  1. ポルシェ 911 GT3(991):30.7m
  2. シボレー コルベットZ06(C6):31.0m
  3. フェラーリ F12ベルリネッタ / KTMクロスボウ GT:31.3m

2018年度のランキング

同じ車種はひとまとめにして、ブレーキ性能が最も高かったモデルをランキング

  1. ポルシェ 911 GT2RS(991):29.3m
  2. フェラーリ 488 GTB:30.2m 
  3. シボレー・コルベットGrand Sport(C7)/ Z06(C7):31.0m

ちなみにポルシェは、8位 スパイダー(918)31.4m、17位 911 Sport Classic(997)32.1m、31位 ケイマンS(981)32.6m、33位 ボクスターS(718)が32.7mでランクインしています。(モデル違いは省略)

2021年度のランキング

※ 同じ車種はひとまとめにして、ブレーキ性能が最も高かったモデルでランキング

  1. ポルシェ 911 GT3RS(991):28.2m
  2. マクラーレン セナ:28.5m
  3. フェラーリ 488 ピスタ:29.6m

ちなみにポルシェは、12位にスパイダー(918)が31.4mでランクイン(上位15位まで)しています。

参考

ポルシェのブレーキの見分け方

ポルシェのブレーキキャリパーには、グレードによって色分けされています。

  • ブラック」:モータースポーツからの技術移転によって高負荷時にも不変の制動効果を発揮。ブレーキキャリパーはアルマイト製。密封式モノブロックデザインにより、高い剛性、優れた応答性、軽量、タイトなペダルストロークを実現している。
  • シルバー」「レッド」:ブラックの強化型モデル
  • イエロー」:ポルシェ セラミック コンポジット ブレーキ(PCCB):大きな制動力を発揮。高速走行からのブレーキング時の極めて短い制動距離と最高の安全性によって、過酷な走行条件における優れた制御が可能になる。灰鋳鉄ディスクより50%軽い。グリップ、乗り心地、および俊敏性が向上する。
  • ホワイト」:ポルシェ サーフェス コーテッド ブレーキ(PSCB):新型カイエンSに標準装備。スチール製のブレーキディスクとセラミックコーティングを組み合わせたもの。制動力はPCCBに迫るレベルで、寿命も鋳鉄ブレーキに比べて約30%向上。ディスクの耐腐食性が向上し、錆びや変色に強い。従来の灰鋳鉄ディスクに比べて9 割前後の大幅なダストを減少。
  • アシッドグリーン」:カイエン、パナメーラのハイブリッド車用のキャリパー。PCCBも同色のアシッドグリーン。
 
※ PCCBのイエローは、形状と機能はそのままで、ハイグロスブラックで塗装するというオプションもあります。
参考

おわりに

ポルシェは、圧倒的なスピードとパフォーマンスで知られていますが、それと同様にブレーキシステムの開発にも力を注いでいます。

高速域で走行することの多いポルシェの車にとって、信頼性できるブレーキは不可欠です。

この記事を通して、ポルシェのブレーキシステムがどれほど特別であるか、なぜ「宇宙一」と称されるに至ったのかについて、知っていただけたでしょうか?

最後まで読んでくださって、ありがとうございました。

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